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- 2025/01/15(水) 07:12:36|
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この島ではなにもしなくても生きていける。
真っ白なシーツの上に身を横たえたヒビキは、天井を眺めながらそんなことを考える。環境に生かされているだけなら家畜と同じだ。
ヒビキは本物の家畜を目にしたことはないけれど。
いうまでもなく、この島には少女達しかいない。時折気まぐれな渡り鳥が島の上空を横切ることがあっても、彼らがここに降り立つことはない。危険な敵のいないこの島は、渡り鳥にとっては絶好の休息所であるはずなのに。
「飛べなくなってしまうのかしら」
指輪島は一年を通じて、温暖で寝るときにも薄い毛布を羽織るだけで十分なほどだ。植物も、その種類を数え切れないほどだ。
むかしからこの島にいるナチュラルさんも、不意に出かけてしばらく帰ってこないシロも、この島のすべての木や草を知っているわけではないだろう。
年少組のヨウは自分と家族(彼女はこの島の暮らすすべてのものを家族と定義しているらしい)がたのしくすごせればほかのことはあまり興味を示さない。
この島に『あらわれた』のが一年前のヒビキは身体を動かすことがひどく億劫で館の中にある自室か、図書館といっていいほどの大きさのある書斎で本を読んで過ごしている。
「よっ」
「シロ……」
シロはその名の通り、なにもかも真っ白に塗りつぶしていく太陽のようで、ヒビキは少しだけ苦手だ。
「あの子は?」
シロは尋ねながらも、ヒビキの横たわったベッドをくるくると歩き回る。
「あの子って……なんのこと?」
ヒビキが嘆息しながらシロの方を向こうとすると、居ない。
神出鬼没はシロの最大の特徴だ。今更驚くようなことでもない。
「いないねぇ」
ヒビキの下から声がする。シロはヒビキの視界から外れているときにベッドの下に潜り込んだようだった。
「新しい子が、『あらわれた』よ。この部屋にいると思ったんだけど」
「そう」
「あら、驚かないね」
「この島に来てから一年しかたっていないから」
「本には、この島のことなんてぜったいに書いてない」
「本を読まないのになぜ断言できなるの?」
「この島について、本を書こうなんて考える人が居ないからだよ!」
ベッドの下からはい出してきたシロは、なぜか胸を張って言う。
「そんなことはないと思うけど……」
長姉に当たるナチュラルさんは、ああ見えてなかなか思慮深い。彼女なら、この島についての細々したことを手記にまとめていてもおかしくはない。
「ナチュラルさんはもしかしたら日記をつけているかも知れないけれど……ぜったいに見せてくれないよ」
「そうね」
シロは膝のあたりを手のひらで払った。そんなことをしなくても、館は隅々まで磨き上げられていて埃ひとつ落ちていない。
「ん、たまにはベッドからでて、館の中探検しに行こうよ」
「いやよ」
「新しい子にあいたくないの?」
「あとであうわ」
「ヒビキ最近ヨウにも会ってないでしょう」
「この間書斎に行ったら昼寝してた」
「叫ぶ岩を探しに行ってる間にそんなことがあったの」
「曇りがちな日はいつも書斎に昼寝しに来るそうよ……大辞典を枕代わりにしてた」
書斎の一角を占拠している大辞典は、ヒビキが抱えなければ持ち上げられないような巨大な布張りの古びたものだ。ヨウはわざわざそれを引っ張り出してきて机の上に置いて枕代わりにして寝ている。
(この古い本の匂いが安心するんだよ)
ヨウが満面の笑みを浮かべて言った言葉を思い出すと、ヒビキの頭の奥がきりきりと痛む。ようやく辞典の上にカバー代わりにタオルを敷くようにはなってくれたけれど。
もっとも、ヒビキにはその辞典に書かれている文字が読めない。遠い異国の古い文字なのだろう。右から読むのかそれとも左からか、それすらも判別しない。
「ヒビキといい、ヨウといい、本が本当に好きなんだね」
シロはヒビキと話し込もうと決めたのかベッドの端に腰掛けた。
勢いよく腰掛けたように見えたが、ベッドは少しもゆれなかった。
「あの子のは少し違うと思うけれど」
シロはまるで体重がないみたいだ。