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- 2025/01/15(水) 16:33:59|
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クレハはナチュラルさんに連れられて菜園を訪れた。菜園は少女達の暮らす館から少し離れた日当たりのいい場所にある。四辺を生け垣で囲われた正方形の土地。
「あ、トマト!」
クレハは赤い果実を指でつついた。
午後の柔らかな陽の光にクレハの蜂蜜色の髪がゆれている。いつもは気になる青臭い植物の香りも、風に拭き流されていくようだ。
「これは摘まないの?」
「種を取らないといけないからね。残しておかないと」
トマトの実を指でつつきながらクレハは首を傾げる。
「その実からは種を取って、また蒔くのよ」
ナチュラルさんの説明が理解できないらしくクレハは首を傾げる。
「ナチュラルさんはなぜここを作ったの?」
初めて観る菜園に次々に疑問が湧いてくるらしく、クレハはトマトの葉を陽に透かしてみたり、軟らかな土の手のひらに握ってみたりと落ち着きがない。
「なぜ?」
ナチュラルさんはそんなこと考えたことがなかった。
ただ、指輪島には菜園がなかった。もしも、自分だけの菜園があったら素敵だなと思って、作った。それだけの話だ。
「なんとなく、なのかな」
「なんとなく……」
この島では衣食に困ることはない。クレハも指輪島にあらわれて数日のうちにそのことは納得したようだった。
「……見えざる住人が、いつか居なくなるかも知れないって、考えてるの?」
見えざる住人。少女達がなにもしなくても生きていける根拠。いつでも決まった時間に温かい食事が用意され、ほとんどの時間を自室で過ごすヒビキの部屋ですら、席を外したわずかな時間のうちに完璧に掃除される。
貴族のような生活だと思う。ナチュラルさんはできる限り自分の身の回りのことは自分でやるように心がけてはいる。けれども、それでも見えざる住人が居なくなってしまったとすればひと月も生きていけないだろう。
「どうしてそんな風に思うの?」
ナチュラルさんは、地面にしゃがみ込んでミミズを見つめているクレハの髪を撫でてやった。指輪島に『あらわれた』少女は、不安定になる。過去を持たず突然こんな場所に放り出されるのだ。
どんなにか心細いだろうか。
ナチュラルさんがこの指輪島に現れたのは、もうずいぶん昔のことだ。その当時のことは、もうすでに本の中の物語じみていて、心細かったという事実はどこか他人事のように感じられる。
母親というのはこんな気持ちで子供に触れるのだろうか。
「……ナチュラルさん。わたしも、はじめようと思う」
クレハは立ち上がって、自分の頭に載せられたナチュラルさんの手を両手に握りしめた。
「ねえ、私はナチュラルさんを助けるためにここに来たのかも知れない」
ナチュラルさんの硬い手のひらを、いまはまだ白くか細い指が包み込む。
「クレハ、あなたはまだこの島を知らないわ」
「苦しんでいる人がいるのに、放っておくことなんかできない……わたしたちは家族でしょう?」
それは館から菜園までの短い道の途中で、ナチュラルさんがクレハに語ってきかせたことだ。シロを初めとして、少女達全員にこの話はしてある。
なにがあってもわたしはあなた達を見捨てたりしない、と。
「ヨウもあなたのことを心配していた」
クレハは握りしめていたナチュラルさんの手を放すと、背中を向けて呟いた。
「どうして?」
「部屋で目をさましたときに、ヨウと話したの。あなたがこの菜園をなんでやっているのだろう、という話」
「……そう」
ナチュラルさんは、自分の顔を両手で撫でまわしてみた。いま自分の抱いている感情がわからない。胸がざわめく。嬉しいのか、恐ろしいのか。自分の浮かべている表情は、一体どんなものなのだろう。
「ナチュラルさん。わたしこの島のことをもっと知らなくちゃいけない!」
クレハはいつの間にか菜園の外に立って、ナチュラルさんに向かって手を振っていた。
午後の光の中にゆれる彼女は、陽炎のようだった。
すでに日付は17日になっていますが、16日の出来事を書きたいと思います。
映画を見に行ったんです。
あなたは映画館で映画を見るの好きですか? わたしは結構好きです。
それでですね、ショッピングモールの中にあるシネマコンプレックスで『エリザベスゴールデンエイジ』を観たんです。
休日のショッピングモールですから、家族連れで一杯です。待ち合わせの時間より早くついてしまったわたしは、ショッピングモールの中を、なにかいいものがないかしらん、などと考えながら歩いていたのです。
エスカレーターで三階にのぼると、なんと小学校に上がる前といった年格好の男の子が
「お母さーんお母さーん」
と泣いておるのですな。これは可哀想だとわたしは声をかけたのです。
坊やを怖がらせないように片膝をついてスマイルです。
「坊や、どうしたの?」
「嫌だ嫌だ!!」
坊や、叫びながら逃げていきました。やや、五歩目くらいで転びました。や、これはいけませんね。
「坊や、大丈夫?」
「嫌だ嫌だ!!」
……。
そのすぐあとに、レジで支払いをしていたらしい坊やのお母さんが現れたのでした。
めでたしめでたし。
……。
でも坊や、わたしは少しだけ傷ついたのだよ?
映画の感想は……翻訳がイマイチ、でした!
『少女達』
鉄製のアンクレットを両足にはめた少女達。
アンクレットが無ければ風に飛ばされてしまうほどに、体重が軽い。らしい。
ナチュラルさんに言わせれば『未来以外のなにももっていないから』らしい。
たぶんこれは冗談のたぐい。
指輪島(ゆびわじま)
空から俯瞰すると、ちょうど指輪のような形をした島。どこにあるのかは不明。
また、島に鳥はいるが外部から渡り鳥がやってくることはない。
島の中心である湖は、完全に淡水で透明度が非常に高い。
かなりの大きさがあり、森もあれば丘もある。
※指輪島の少女達
(初めの少女)
居たはずだ。しかし、彼女は自分の居た証拠を残そうとはしなかった。
(足輪のいらなくなった少女達)
幾人かの少女達は指輪島から旅立っていった。
ナチュラルさん
島の少女たちのリーダー格。
島の菜園の主。植物の育て方に明るいことからナチュラルさんと呼ばれる。
菜園では、最近トマトがもぎ時。
シロ
ワレタダタルヲシル
髪をとかすという習慣がない。
徘徊癖がある。叫ぶ岩の声がするなどともいう。
指輪島に『あらわれた』少女を目覚めさせ名前を付けるという役目をおう。
(足輪のいらなくなった少女達)
幾人かの少女達は指輪島から旅立っていった。
ヨウ
いつも機嫌良くなにかのメロディーをハミングしている。
元気のいい少女。
そばかすのある顔をくしゃくしゃにしていつも笑っている。
少女達のムードメーカー
ヒビキ
黒髪の美しい少女。
虚弱体質のため、一日の大半を館の中ですごす。
そんな暮らしに退屈しているが、疲れるのでやっぱり寝ている。
野菜が嫌い。身体が弱いせいもあるが、背が低い。
お爺さん風車の最上部には一度だけ登ったことがある。最後のほうはナチュラルさんに背負われていた。お爺さん風車の階段は五百段以上あるに違いないと思いこんでいる。(実際は九十二段)
クレハ
背中に深紅の傷跡がある少女。
島の浜辺に流れ着いたクレハをナチュラルさんが見つけ、介抱した。
少女達の中で例外的に島の外の記憶をおぼろげながらももっている。
自分一人で目覚め、自らクレハと名乗った。
※指輪島の名所
おじいさん風車
島の中央部『館』の庭にある巨大な風車。
九十二段の階段を上ってようやく頂上につける巨大な風車塔。
最上階に錆びついた青銅製の風見鶏が設置してあるために『風見の塔』と呼ばれることもある。
?叫ぶ岩
夜になると星に向かって叫ぶ(シロ談)
岩なのに指輪島をあちこち移動しているらしい。
空に階段を探しているらしい。
?(島の見えない住人)
ナチュラルさんの仮説。
指輪島には目には見えない人間がいる。館が勝手に手入れされて、料理すらできているのは、この目には見えない住人がいるから。
館
少女達の暮らすところ。地上三階地下一階。
見えない住人が居るらしく、物置として使っている部屋ですら埃ひとつ落ちていない。
クレハがあらわれるのを予期したかのように、あたらしいベッドとシーツが用意されていた。
街→1話の時点では登場していない
館を時計の十二時の位置とすれば、二時のあたりにある無人の街。無人だが、見えない住人が存在しているらしく店に品が出たり、学校ではチョークがひとりでに持ち上がって黒板に文字を書いたりする。
少女達はナチュラルさんが育てた野菜や、自分たちの作った様々なものを物々交換のようにして飴や櫛をもらってくることがある。
少女達が街で暮らさないのは、街にある小さな家々は、見えない住人の為だけであるような気がしたから。